移動することで生まれる“偶然”のダイナミズムを思い出そう。旅がまた私たちの大事な一部として戻りつつある。 30年ほど前に公開された『偶然の旅行者』という映画があります。アン・タイラーの小説を基に映画化されたものですが、残念ながら原作の翻訳版は出版されていないようです(絶版ですが早川書房から翻訳版が出ていたというご指摘をいただきました)。トラベルライターを主人公にしたラブストーリーなのですが内容はさておき、なんといっても惹かれるのはそのタイトルです。“偶然の旅行者”、原題では“The accidental tourist”という言葉には想像力を掻き立てるものがあります。しかし、調べてみるとこれは何か理由があって不承不承旅をすることになった旅行者のことを指す、割と身も蓋もない言葉なのだそうです。 例えば仕事の用事で見どころのない退屈な街を訪れたり、縁のない外国や遠い街に暮らす家族を訪ねたりとい