著: 土門 蘭 実家の近くの朝日町公園の時計は、直しても直しても時間が狂うという噂で、幼いころはそれが気味悪かった。 ここに来るのは何年ぶりだろう。遊具はぴかぴかに新しくなっているのに、時計は古いままで、わたしはコートのポケットに手を突っ込みながらそれを見上げる。取り出したスマートフォンの液晶は午後六時二十三分を示していて、公園の時計はやはりそれより五分ほど遅れていた。 三月。すでに日は暮れていて、夜風が冷たい。吐く息が、薄暗い空気に現れては消えていく。 「やっぱり狂っとる」 そうつぶやく声が聴こえた気がして、わたしは後ろを振り返った。でもそこには誰もいなくて、無人のブランコが二つ並んで静かにぶら下がっているだけだった。 わたしは自分がひとりごとを言ったのだと気付く。 ほっとすると同時に自分をおかしく思いながら前を向き、ぎくりとした。今まで誰もいなかったはずなのに、そこにはいつの間にか高校