食べること。生命を維持するのに欠かせないだけでなく、日々の楽しみでもある。そんな「食」の背後にどんな歴史があり、どんな技術が注ぎ込まれているのか、私は格別に考えることもなくこの楽しみをただ味わってきた。本書『戦争がつくった現代の食卓』の翻訳に携わってはじめて、自分が日ごろ慣れ親しんでいるさまざまな食品を生み出した研究や開発の試みの数々を知り、その恩恵に感謝するとともに、食卓を彩るアイテムにひそむ問題にも気づかされた。 著者のアナスタシア・マークス・デ・サルセドは、自称「アメリカのフードライター界の悪女」。食品業界の欺瞞を暴く記事でネットを炎上させたこともある。幼いころから料理が好きで、結婚してからは家族のために腕を振るい、子どもが学校に通うようになればカフェテリアの昼食を嫌って弁当づくりに力を注いだ。しかしフードライターの仕事を始めて食品科学の知識が増えたサルセドは、自分が自信たっぷりにつ