翻訳作業のお手伝いをしたアンソニー・グラフトンの『テクストの擁護者たち』を読み終える。本書の内容については、すでに原書を紹介したときにもあらかた書いてしまったが、改めてどんな本なのか紹介しておこう。 本書はルネサンスから近代という長い時間軸のなかで当時の知識人たちがどんな風にテクストを読んだり、肯定したりしたのか、という知の営みの歴史を扱っている。そこで登場するのは、たとえば、デカルトだとかスピノザだとか、西洋思想史界のスーパー・スター的な人物たちではない(第7章で扱われているケプラーが例外か)。「歴史」のなかでほとんど無視されてきたような、知識人たちである。そうした忘れられた知識人たちによって、文献学やテクスト校訂の技術が培われ、現代にまで引き継がれる礎を作られたのだ……というのが、本書のおおまかなストーリーになるだろう。 特筆すべきなのは、グラフトンの歴史記述の方法だ。これは本書巻末に