『欲望の翼』(1990年)や『恋する惑星』(1994年)など、1990年代から数多くのヒット作に恵まれた香港の映画監督ウォン・カーウァイ。その主要5作品が4Kレストア版として生まれ変わり、8月19日より日本国内で順次公開される。新たな光が色鮮やかに照らす珠玉の作品群のなかでも注目したいのが、今年公開25周年を迎える『ブエノスアイレス』(1997年)だ。 香港の男性同士の実らぬ愛を描いた本作に対する公開当時の批評や配給・興行の状況は、HIVの出現によって深刻化した同性愛嫌悪もあって決して自由なものではなかったといえよう。たとえば韓国では、同性愛のテーマを理由に、倫理委員会による輸入審議で同作が「不合格」の判決を受け、劇場公開が大幅に遅れたのだという。 そのような状況にもかかわらず『ブエノスアイレス』は、香港を含む東アジアの映画史において最も重要な「ゲイ映画」の一つとして今日まで高い国際的評価