今回の記事で紹介するウィリアム・A・ウェルマン監督『つばさ』(Wings、1927)は、厳密に言うとプレコード映画ではありません。プレコード映画というのはトーキーが始まってからヘイズ・コードが厳密に施行されるまでの映画を指す言葉です。サイレント映画である『つばさ』はこれに該当しません。 それなのにこの連載で『つばさ』をとりあげるのには、ふたつ理由があります。ひとつめとして、『つばさ』はプレコード映画に見られるような描写は既にサイレント映画にもあったのだ、ということを説明するのにぴったりの作品だからです。ふたつめとしてあげられるのは、『つばさ』は航空アクション映画の祖と言われる名作で、第1回アカデミー作品賞を受賞しており、単純に面白いからです。サイレント映画というと敬遠してしまう人も多いと思いますが、見て損はありません。 『つばさ』はアメリカの田舎町で始まります。お金持ちの息子デイヴ(リチャ