生物を見ていると,びっくりするほど巧妙な仕組みがある一方で,どうしてこんな無駄があるのかと思うような不思議な現象に出会う。 ヒトゲノムは30億塩基対のヌクレオチドが並ぶといわれるが,その中でタンパク質を作る情報をもつ遺伝子の部分は数%しかない。そのうえ,遺伝子の中にも,タンパク質を作るための情報をもたず,RNAに転写された後に切り捨てられる部分がある。それがイントロンだ(図①)。必要な情報はエキソンと呼ばれる領域に断片的に存在しており,それがRNAの段階でつなぎ合わされ,さらに化学的に修飾を受けて,タンパク質合成(翻訳反応)の鋳型となるmRNAができる。 私が初めてこの話を知ったのは,生物学科の学生の頃で,今から20年も前のことだ。その頃研究に使っていたバクテリア(原核生物)にはイントロンがない(当時はそう思われていた)のに,ヒトを含む真核生物ではなぜこんな手間暇のかかることをするのかとて
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