着物の左右にあって、腕を通す部分。衣手。古くから袖には霊魂が宿ると信じられてきた。「袖振る」は愛情を示したり、別れを惜しむ行為であるが、相手の魂を招き寄せる方法で、魂乞いの一方法である。万葉集中では、柿本人麻呂が「娘子らが袖布留山」(4-501)と詠み、石上神宮の「布留」を起こす序であるが、これは巫女が神を招き寄せる舞の姿であろう。柿本人麻呂はまた「石見国より妻を別れて上り来る時の歌」の反歌(2-132)で、石見のこの高角山の木々のあたりから私の振っている袖を妻は見ているだろうか、と詠む。旅行く人麻呂が高角山に登り妻がいる方向に向かって袖を振るのは、袖振りの信仰のもとに別れてきた妻の魂を招き、一緒にあることを強く願望するからである。また、大宰府の長官大伴卿が都に向かって出発した時に、児島という遊女が自ら袖を振って「大和道は雲の彼方です、雲隠れてお目にふれずとも、どうか私の振る袖を無礼とお思