海岸で拾う硝子壜の多くは、たとえ完品でも正体不明のものが多い。でも、わずかながら壜の形で正体がわかるものがある。インク壜もその1つだ。このインク壜、海岸からは結構出てくる。その中から、今回は壜底にMのマークと登録の文字。丸善インクだ。 「丸善」は、福沢諭吉の門下生で医者の早矢仕有的が明治2年(1869)に横浜で創業した丸屋商社が始まりで、書籍や薬、医療器具を輸入する会社だった。翌明治3年、日本橋に書店の丸屋善七商店を開業し(丸屋善七は架空の会社設立者)、これが略されて「丸善さん」と呼ばれるようになったのが、後の会社名の由来だという。会社は多角経営化を進めてさまざまなものを輸入販売するようになり、明治17年(1884)には日本で最初に万年筆を輸入販売したのは有名な話。そして翌18年には、万年筆に必要な丸善インキの製造販売を開始している(インキそのものは明治11年から製造している)。 写真の壜