I.科学者・小柴の特殊性 〜 古き良き時代の科学者と現代的な科学者の融合 〜 「研究の中の苦労?夢を追いかけさせてもらっているから、苦労なんて感じない。物理は楽しい。物理をやっていて苦しいと思ったことはない」 科学者と言われたとき、私たちはどんな人物像を思い描くだろうか。形振り構わず、一日中、研究室に引きこもり、研究に没頭している。頭脳明晰であるが、世情には疎く、人付き合いが苦手。周囲からは、「あの先生は偉いけれど、ちょっと世間知らずで・・・」と尊敬と苦笑を交えて語られる、といったところが一般的ではないか。ステレオタイプではあるが、「古き良き時代の科学者」は多かれ少なかれ、このような特徴を備えていたようである。例えば、夏目漱石の門下生でもあった物理学者の寺田寅彦(1878-1935)をモデルに、漱石が書いた『三四郎』の登場人物、野々宮宗八は、「理科大学(今の東大理学部)の穴倉で半年も光線の