カズオ・イシグロが脚本を手がけ、アカデミー賞脚色賞と主演男優賞にノミネートされた映画『生きる LIVING』が、日本でも3月31日から公開される。彼の映画や小説の映画化作品がことごとく成功する理由は何なのか。そして、その作品群が織りなす彼の世界観はいかにして作られたのか。米誌「アトランティック」がインタビューした。 母の「ワンウーマンショー」 カズオ・イシグロの作品がまだ一字たりとも出版されていなかった頃、彼は英国・ギルフォードに暮らす少年で、母親は大好きな日本映画を演じることを趣味としていた。 1960年、イシグロが5歳のとき、一家は長崎から英国へ移住した。当初は海洋学者である父親の研究のため、一時的な滞在を予定していたものの、結果的にそれは長引き、ついには英国が彼らの故郷となっていった。 日本の映画を見られなくなったイシグロの母親は、息子が言うところの「ワンウーマンショー」をするように