第二次大戦末期、国策として遂行された「満洲報国農場」。派遣された農村の若者や農学生たちの多くは、やがて迎える終戦に前後して、かけがえのないその命を奪われることになる。「地獄絵」とも称されるその惨劇の実態を、東京農業大学の小塩海平氏が、数少ない生還者との交流から描き出す。 「丸坊主の青春」 土居春子(旧姓:溝渕春子)先生は、満洲報国農場の生還者の中で、私が存じ上げている唯一の女性である。 『香川の開拓者たち:満州国牡丹江省寧安縣東京城鏡泊湖第十次半截溝香川郷開拓団と報国農場勤労奉仕隊の人々』(成光社、2013)に収録されている「丸坊主の青春」という先生の回想録は、バリカンで髪を刈り上げ、男装するシーンから始まっている。 終戦の年、香川県半截溝(はんさいこう)報国農場に副団長として渡満された土居先生は、引率した30余名の女子隊員に先だって、丸坊主になられた。侵攻してきたソ連兵による襲撃や強姦を