ノンフィクション作家最相葉月のこのエッセイ集のタイトルは、自由律俳句の種田山頭火の「なんといふ空がなごやかな柚子の二つ三つ」にちなんだものだ。その言葉の選び方からして、すでに素晴らしい文学センスを感じる。 ~48編のエッセイは懐かしくも切なく、そして温かい ~ 彼女は小説家ではないが、筆者にとって彼女の書くノンフィクションは、凡庸な小説の何倍も何十倍も「物語」に引き込まれる。 ノンフィクション作家というと落合信彦のように、身体を張ったルポルタージュや、吉村昭のようにストイックな資料収集と現地の調査、生存する関係者へのインタビューで可能な限り再現しようとする記録小説などの印象が強かった筆者は、最相葉月の「絶対音感」を読んでひとかたならぬ衝撃を受けた。 Sponsored Link Advertising 「絶対音感」は彼女の最初のベストセラーだが、題材となる当事者たちの心の中に深く入り込み、