空っぽの道がまるで未来へと誘うように、彼の眼前に延びていた。速度制限のないこの道を呑み込むように、彼はジャガーEタイプを時速120キロの猛スピードで走らせる。M1モーターウェイに、他の車の影はなかった。その彼の後ろを、白バイが追う。デイヴィッド・ベイリーは、当時、車、とりわけジャガーEタイプやロールスロイスといった高級車を保有する数少ない若者の一人であり、ゆえに常々、警察に呼び止められていた。 これはスウィンギング・ロンドンが公式に生まれる1年前、1965年のことだ。ベイリーは『ヴォーグ』の仕事で、ピーター・ユスチノフ監督作『レディL』を撮影中のソフィア・ローレンを撮るため、撮影地のスカボローに向かっていた。 警官は、このM1に速度制限はないとはいえ、匿名者からスピードオーバーの通報を受け、若き写真家デイヴィッド・ベイリーを追っていたのだ。警官はベイリーの車を呼び止めた。