レティツィア・マーシリ(Letizia Marsili)は、6歳のとき、木や街灯など、目に入るもの全てに登っていた。ある日、街灯に登ると、彼女の胸に木から突き出た釘が刺さった。しかし、彼女は、痛みに泣きわめいたりせず、胸から釘を引き抜き、血まみれの穴をシャツで覆った。数日後、母親が彼女を風呂に入れるまで、誰も怪我に気づかなかった。 現在52歳になったレティツィア曰く、自転車での転倒や足首の捻挫など、事故に遭っても痛みを感じなかった経験は、数え切れないそうだ。「怪我に強いのは、自分の個性だと思っていました」 実は、レティツィアは、〈先天性無痛症〉という遺伝子変異による疾患を抱えていた。生まれつき痛覚がない、珍しい遺伝性疾患で、熱や強い圧迫などの刺激を感じられないケースもある。2000年、レティツィアの同僚の疼痛学者が、彼女は無痛症ではないか、と疑ったのが最初だった。その後、レティツィアの家族