1.残業代の不払と取締役の個人責任 会社法429条1項は、 「役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。」 と規定しています。 残業代を払ってもらえない労働者は、この規定を根拠として役員(取締役)に個人責任を追求することが考えられます。 ただ、会社法429条1項に基づく損害賠償として残業代を請求するにあたっては、幾つかの乗り越えなければならない壁があります。 一つは、損害の発生です。 会社から残業代を払ってもらえる限り、労働者に損害が発生することはありません。そのため、「損害」があったといえるためには、会社が倒産状態に陥るなど、会社から残業代を取り立てることができない事情が必要になります。 もう一つは、任務懈怠と損害の発生との間の因果関係です。 残業代の不払と会社の支払能力の喪失との間に因果関係があると