「君はちゃんと吃ることができるからいい」 そう言われたのはもう5年以上前のこと。 当時は「はぁ…」と頷くしか返事ができなかったが、今でも折に触れて思い出す。 この言葉を僕に言ったのは、西きょうじさん。軽井沢に住んで、東京に通って予備校講師をしている、ちょっと変わった人だ。実際に授業を受けたことはないけれど、ひょんなことから紹介してもらい、以来ちょくちょくお酒を飲む仲になった。 西さんに言われたことは、「実感の伴わない知識まで、さも自分の考えかのように流暢に喋るよりは、下手くそでゆっくりでも、自分の実感から言葉を絞り出そうとできることの方がよっぽどいい」と、そういうニュアンスだったと思う。 だけど当時の僕は、むしろ「そのようにしか話せない」状態の自分にひどく悩んでいた。 流暢に、明瞭に話せる人になりたかった。 臆することなく滑らかに早々と対人コミュニケーションを成立させられる人が羨ましかった
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