ババアとジジイと私たち 男女9人の貧乏シェアハウスに住んでいた頃、我が家の鍵は常に開きっぱなしだった。 今から考えると相当危ないが、「どうせ、空き巣に入られても誰も盗られて困るもの、持ってないし」という住民全員の総意だった。 マンションの8階にあるそのシェアハウスのほかは怪しいテナントやマッサージ屋ばかりで、いつ誰が入ってきてもおかしくない状況だった。 深夜3時、予期せぬ来訪者がある。 「おとうさぁん、おとうさぁぁん」切なげなソプラノで配偶者を呼ぶのは9階に住む98歳の老婆である。 「おとうさぁん、ねえ、どこに行っちゃったのう」 その「お父さん」の方は数ヵ月前から昼時になるとバァンと凄まじい音を立てて我が家のドアを開ける。「おい、メシまだか」と言いながら男子4人部屋に突進し、2段ベッドで寝ている住人を叩き起こす。 「うるせぇな、ジジイ」そう悪態をつきながらも住人たちはなぜか彼に優しい。なん