ヴィクトル・ペレーヴィンは、現代ロシアでカルト的な人気を誇る作家である。一九六二年生まれ、モスクワ在住。もともとは電子工学を学び、飛行士の訓練も受けていたという。SFに近い「風刺的・哲学的幻想小説」とでも呼ぶべきジャンルの書き手であり、一九九○年代前半にSF関係の文学賞を何度も受けた。既成「純文学」文壇の狭い枠組みをはるかに越え、若い世代を中心に広範な読者の間で強い支持を受けているという意味では、日本の村上春樹にも多少似た存在と言えるだろう。いや、私の印象では、村上春樹の上品なファンタジーに、キッチュを恐れない島田雅彦の「毒」を加味したような、そんなパワフルかつ神秘的な作家である。いずれにせよ、新作が出るたびに一種の「文学的事件」となるような作家は、現代ロシアの文壇では彼のほかにそんなにいるわけではない。 その彼が国際交流基金の文化人招聘プログラムで、今年の三月末にお忍びで来日した。「お忍