イアン・ハッキング『偶然を飼いならす』木鐸社,1999年5月,xii+354頁,4500円,ISBN4-8332-2274-4.(原著,Ian Hacking,The Taming of Chance,Cambridge University Press,1990). 20世紀の物理学は世界に対する概念を塗り替えた.量子力学を皮切りに「世界は決定論的なものでない」ことが発見されたのである.しかし,実はこの転換に先駆け,「この世界は確かに秩序だっているが普遍的な自然法則に従っているのではない」という考えが19世紀を通じて浸透していったことを見のがしてはならない.その「秩序」とは今日の我々が「統計学的法則」と呼ぶ類いのものであり,広く「偶然」(chance)の作用する現象が対象となる.すなわち,20世紀の発見以前に決定論は「偶然」により侵食されていたのだ.その緩やかな転換の背景には、人間や習俗