こいつはいったいなにか、おわかりになるだろうか? いまの若い人なら、実物を見たことがある人はもはや少数派だろう。知らない人には大きさすら見当もつかないかもしれない。およそ二、三センチの小さな昆虫だ。 「斑猫」である。なに、読めませんか? いかんなあ、筒井康隆はちゃんと読んでおかなくちゃ。「ハンミョウ」だ。おれも今日、山でひさびさに見たのである。 ふと、子供のころに住んでいたあたりに無性に行きたくなり(と言っても、地下鉄で数駅だが)、ただただそのあたりを散歩して、四十年以上の時の流れを感じてきた。むかしハンミョウがたくさんいた山道をおれは知っており、そのそばの寺に行ってみると、なんと、こいつがいたのだ。人間、五十も近くなると、「むかし、このへんにはこんな虫がいたなあ」などと懐かしく思い出す場所は、たいてい見る影もなく様変わりしているものだが、またこのへんでハンミョウにめぐりあえるとは、うれし
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