#15 母のこと わたしの知っている花の名前のほとんどは、母の口から覚えたものだ。 母は、売っている花と道端に咲いている花とをひとしく愛する人で、わたしの幼稚園の送り迎えのあいだ、ずっと足もとを指さしながら歩いた。おおいぬのふぐり、はくもくれん、かたばみ、ほとけのざ、ねじばな、わたしもすぐに覚えて、受け売りで幼稚園の友だちにじまんした。 毎年どくだみが咲き始めると、そのころのことをよく思い出す。春を終えて梅雨に入る前、ちょうどいまごろだ。 「どくだみはくさいから嫌われてるけど、花はかわいいでしょ。十字架のかたちの花なんだよ」 それが、キリスト教徒でもあった母の決まり文句だった。どこか教会の集まりでそれを聞いてきて、ずいぶん感銘をうけたらしい。そういいながら母はよく、どくだみの葉っぱをいちまい摘んで手のなかで叩いて遊んだ。そうするとにおいが立つのだ。そして、ひらいた手を幼いわたしに嗅がせ、お