監獄のある街で 2018.09.28 更新 「俺はたったいま刑務所から出てきたんだ」 見ず知らずの男性に突然そう話しかけられたことがある。 真冬のJR網走駅構内での出来事だった。 私は大学生で、数年後に夫となる人と青春18きっぷを使って北海道をぐるりと旅行していた。オホーツク海に面するその街に立ち寄り、名物の駅弁「かにめし」を買い、ベンチに座ってさあ食べようというときだった。 浅黒い皮膚をたるませた六十代くらいの小太りな男性がふらりとやって来て、並んで座る私たちのすぐ横に腰を下ろした。まわりに客はほとんどおらず、ベンチもたくさん空いているというのに。 そして冒頭の一言だった。 娑婆で接する最初の人間が私たちだったのかもしれない。会話の距離感を忘れてしまったのか、元からそうなのか、とにかく、いきなりだった。 私たちは「えっ」と発したまま固まった。 刑務所と監獄博物館のある街特有の冗談だろうか
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