著: 平井珠生 2024年夏、突然実家が無くなった。 私は兵庫県宝塚市の仁川(にがわ)という街で、10歳から20歳までの10年間を過ごした。仁川は、阪急今津線沿線にある閑静な住宅街で、とにかく坂が多い。ただ、その坂の多さのおかげで、高台では夜景が美しく、そこが街の魅力だ。 小さい頃から、兵庫県内、それも西宮市から宝塚市、そしてその中でも阪急今津線の小林駅から隣の仁川駅への引越しという、超近距離引越し(約2km圏内)を繰り返していた。 そのせいなのか、生まれた場所は正直そんなに覚えていない。ただ一つ覚えているとしたら、当時住んでいた団地の敷地内で野良猫におでこを引っ掻かれたことくらいだ。 猫への恐怖心をしっかりと植え付けられつつ、何度かの引越しを経て、小学4年生の頃、われわれ家族は仁川という街に腰を落ち着けた。これまで近所のスーパーの品揃えや品質に常に小さな不満を抱えていた母が、ついに「コー
