本書は労働の哲学を、AI(人工知能)を素材にして考察したものである。 著者は巷間喧しい「AIに職を奪われる」懸念に対し、まずは「取って代わられることはない」と述べる<第4章>。その指摘は、スミス、ヘーゲル、マルクスのレビュー<第1章>、労働契約や財産権等の法的側面、また産業社会論の検討<第2章>、機械化、AI化による企業組織等の変化や労働に与えるインパクトの検討<第3章>を経たものである。 次いで第5章の冒頭で、AIが技術的特異点(シンギュラリティ)を超え、道具であることを脱して自律的行動能力を獲得し、人間を上回ったとしても、(社会に大変な緊張と紛争を呼び込むだろうが)「市場経済体制、資本主義社会を根本的に変えるとは言えません」と総括する。ここで一旦、AIをコンピューターの延長線上、あるいは資本主義社会の下で人類が発展させてきた様々な機械や道具の延長線上で捉えうることを否定せず、読者をひと