昨年、再発乳がんに対し、新しい治療法「腫瘍溶解性ウイルス療法」を試みた症例をまとめた論文が発表された。内科医の名取宏さんは「この論文が話題になった理由の一つは、自己実験だったから。倫理的な問題もあるが、これまでさまざまな自己実験が医学の発展に寄与してきたことは間違いない」という――。 新しい「腫瘍溶解性ウイルス療法」 2024年8月、『Vaccines』という医学雑誌に「再発性乳がんに対する術前腫瘍溶解性ウイルス療法の異例の症例研究」という論文が掲載されました(※1)。この論文は、一人の女性患者(50歳)の症例報告をまとめたものです。彼女は4年前に乳がんの治療を受けたものの、局所再発を起こしました。そこで「腫瘍溶解性ウイルス療法」という、特殊なウイルスを腫瘍に直接投与し、がん細胞を感染させて破壊し、免疫反応を誘導するという新しい治療法を受けたのです。なお、実際に使用されたウイルスは、弱毒化
