1960年前後の大きな世界ニュースはスブトニークとアイヒマン裁判。日本の新聞は、アイヒマン被告を小心な官僚タイプの人間と報じていた。この種の通説は、ドイツ出身のユダヤ人学者ハンナ・アーレントの裁判傍聴の感想を記載した著書「エルサレムのアイヒマン」により広められた。 著書の題名がアーレントの著作を意識して命名されたことは疑いなく、著者の結論はアーレントのものと全く異なるが意外にもアーレントに係る引用や批判は少ない。 著書の通説への批判は、アルゼンチンでナチスシンパ達の集まりでの討論を自身シンパである作家のサッセンが録音しテープ起こしも行った資料を主な根拠としている。著者は他にも諸資料を多角的に検討、公文書の閲覧、研究者との面会も数多く複数の推測・推定が提示されている場合、自説の根拠と他説に賛同出来ない理由を示す。従ってほとんどを裁判傍聴の内容に拠っているアーレント説より著者の見解が真実に近い