「複雑系」。 しばしば耳にするけれど、その実体がなんなのかよくわからない……という方は多いのではないでしょうか。 近代科学のパラダイムにさまざまな側面から挑戦をしかけた「複雑系」の議論は、いまこの瞬間も世界の謎を解くための格闘をしています。 小説家の金重明氏が魅力的な文体で執筆した『「複雑系」入門 カオス、フラクタルから生命の謎まで』は、複雑系のポイントをわかりやすく解説してくれています。 ここでは、複雑系の重要な一部である「バタフライ効果」のアイデアが生まれた瞬間を振り返った部分を、同書から抜粋してお送りします。 MITの研究室で… スーパーコンピュータの数値計算にもとづく気象予報がおこなわれる少し前の時代、マサチューセッツ工科大学(MIT)の気象学の教授であったエドワード・ノートン・ローレンツ(一九一七〜二〇〇八)は、よちよち歩きのコンピュータを用いて気象の研究をしていた。 ローレンツ