「“む『ず』かしい”じゃなくて、“む『づ』かしい”でしょう?」 1998年8月、サンパウロ市の南西、サン・ミゲール・アルカンジョ市に住む高知県出身の山本万寿子さん(当時87歳)宅を訪れた。26歳でブラジルに移住した万寿子さん。私がノートに記した「むずかしい」という字を見て、思わず発した一言だ。その日本語には高知方言の特徴がしっかりと現れる。 現代日本語の共通語では、『ず』と書いても『づ』と書いても発音に違いはない。だが、かつて『ず』は[zu]、『づ』は[du]のように区別して発音されていた。「難しい」は、昔の仮名遣いでは『づ』を用いて「むづかしい」と書かれていた。万寿子さんはこれを[du]と発音し、『ず』[zu]とは区別する。このような発音の区別は17世紀末ごろにはすでに一部の地域を除いてなくなっていたが、高知県や九州南部あたりの高年層話者には、今でも聞かれる場合がある。驚くべきことは、こ
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