著: チョーヒカル 職場もないし、どこに引越していいのかわからない 私たちを大人にするのは住んでいる街なのではないかと思う。どこかに友達に連れて行ってもらったり、人と付き合ったりして経験が広がっていくこともあるけれど、親元を離れて自分一人で生きていくなかで、住む街にかかわることほど真に自分に影響することって無い気がする。そして、私を大人にしたのは間違いなく中野だった。 中野に住むことを決めたのは大学を卒業したときだった。同級生たちが次々と就職をしていくなか、私は「アーティスト業」という名の無職になることを決めた。将来の計画なんてなく、「やってみないと後悔しそう」なんて、そんな気持ちだけで真っ暗な海に飛び込むことにしたのだ。 通っていた武蔵野美術大学は東京の端っこ、西武国分寺線の鷹の台という駅にある。学生たちはみんな、在学中はその辺りに住んでいるのだけど、交通の便は悪いし、天然酵母を使ったパ