筆者は、現在、吉野文六氏(元外務省アメリカ局長、元西独大使)が目撃したナチス・ドイツ第三帝国の事情について詳細な聞き取りを行っている。それを踏まえ、昨年から『現代』に「国家の嘘 『沖縄密約を証言した男』吉野文六の半生」を連載している。その過程で、さまざまな回想録や外交文書を読んでいるが、ときどき衝撃的な記録を目にする。 ソ連軍は、ベルリンに残留した日本人にモスクワ経由でシベリア大陸横断鉄道を用いて帰国する便宜を図った。この帰国団の責任者である河原●一郎在ドイツ大使館参事官(戦後、最高裁判所調査官に就任)が、1945年7月12日に高松宮殿下にドイツ事情に関する御説明を行っている。海軍軍令部内高松宮殿下御事務所で行われたこの御説明は、「高松宮殿下に対するドイツ事情御説明要綱」という記録にまとめられている。ここから高松宮殿下が、ドイツにおいて正確な情報がヒトラー総統にあがっていなかったのでは