「あなた、今年還暦でしょ」 「そうだよ」 「だったら、もう『老師』って言われるでしょ」 「うん。40代で呼ばれた時は、『オレが老人に見えるか』って若い坊さんに文句言ったが、最近はあきらめてる」 「だったら、もう少し、らしくしなさいよ」 「老師っぽく?」 「そう。もうちょっと話し方を穏やかにするとか、立ち居振る舞いに威厳があるようにとか」 「確かにさア、アナタ変わりませんねえ、いつまでも昔と同じで若いですねってのは、もう誉め言葉と思っちゃまずいよな。苦労が身に染みない軽薄男みたいで」 「でしょう?」 「でもさあ、ぼく、昔から『らしく』がダメなの。いつもソレ、言われてたの。子供のときに『子供らしくない』、学生の時に『学生らしくない』、就職したら『社会人らしくない』。ついに坊さんになったら、また『坊さんらしくない』ってさ」 「まさにはみ出し者だな」 「そう。で、そのうち気がついた。『らしく』はこ