『リバタリアンが社会実験してみた町の話 自由至上主義者のユートピアは実現できたのか』(マシュー・ホンゴルツ・ヘトリング 著/上京恵 訳)原書房 奇書、といっていいだろう。 本書の主役は、個人の自由を極限まで追求し、徴税や徴兵など国家による介入を拒否するリバタリアンだ。しかし、この本には別の主役も出てくる。それは熊だ。 舞台はアメリカ北東部ニューハンプシャー州のグラフトンという小さな町で、深い森に囲まれている。この州の標語は「自由に生きるか、さもなくば死を」で、開拓時代の独立自尊の価値観をいまも受け継いでいる。だからこそ「自由」に憧れるリバタリアンがこの町に移住し、理想のコミュニティ(フリータウン)をつくろうとした。ところが彼らは、野生の熊と遭遇することになる。 リバタリアンは、私的所有権を絶対のものと見なす。自分の土地でなにをしようと自由で、国家や行政があれこれ口出しし、私権を制限すること