明治維新の折、勝海舟と西郷隆盛の行った虚心坦懐の談判により江戸は無血開城され、無辜の民は救われた。 後世に伝わる美談だが、明け渡された肝心の城はその後どうなったか。本書の冒頭で明かされるのは、殿様気分を味わうべく多くの乞食や夜鷹(街娼)が住み着いたという事実である。東アジア最大の城郭は空家として捨ておかれたのだ。 市中は衰微と混乱を極め、武家と富裕な商人層の姿が町から消えた。江戸はがらんどうになり、100万人を数えた人口は半減。駕篭かきや武士の雑用を勤める中間など、幕藩体制あっての職に従事していた人は路頭に迷った。 明治元年、東京と改称した首都の経済は完全に破綻、窮民は溢れた。産声をあげたばかりの明治政府は、貧民対策に追われることになる。 たとえば、司馬遼太郎の小説やエッセイでは、近代国家になろうと努力する明治政府の健気さが繰り返し説かれるが、著者が着目するのは、そうしたひたむきな努力の犠