前回に引き続き、歴史学者と歴史作家の考え方の違いについて説明したい。 井沢氏の執筆姿勢の変化 井沢氏はもともと推理小説家だったので、かつては歴史を題材とする場合には、現代に発生したという設定の(架空の)殺人事件と絡めて小説として発表していた。いわゆる「歴史ミステリ」で、現代を舞台として架空の探偵が殺人事件の解決のついでに歴史上の謎を解明するというスタイルである。名探偵・神津恭介が義経=ジンギスカン説を検証する高木彬光の推理小説『成吉思汗の秘密』(1958年)など、こういう小説は昔からあり、私も否定する気はない。 だがこれではインパクトが弱いと思ったのだろうか、井沢氏は架空の探偵を置くのではなく、自らが“歴史探偵”となって歴史の謎に挑むようになった。それが『逆説の日本史』などの著作である。 歴史の謎解きという内容面では初期の歴史ミステリと大差ないが、フィクションではなくノンフィクションの体裁