文/兼田達矢 「80年代なんて1980年に始まらない」と言ったのは中上健次だけれど、YMOがアルバム『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』をリリースしたのが‘79年9月だから、あるいはそうかもしれない。個人的には、’80年10月の山口百恵の引退から始まったという感覚が強いが、それは70年代が10カ月延びたと捉えるべきだろうか。いずれにしても、音楽的には80年代がシンセサイザーと、それを駆使した打ち込みサウンドの時代であることは間違いない。世界中の音楽家たちが、従来の楽器の演奏では表現し得ない音色とニュアンスを持った音を電子機器で次から次へと作り出すことに熱狂し、それを思い思いの配合と構成で聴かせて、そのオリジナリティを競った時代。作編曲家・大村雅朗が数多くのヒット曲を生み出したのはそういう時代だった。言い換えると、80年代の音楽的な時代感を、日本のポピュラー・ミュージック・シーンにおいて最