戦時中、戦意高揚を図る看板が街の中に立っていたという。「贅沢(ぜいたく)は敵だ」のスローガンに、反骨精神のある人が「敵」の前に「素」を書き加え、「贅沢は素敵(すてき)だ」と変えたエピソードは有名だ▼作家の半藤一利さんは、警官が激怒しているのを見たことがあるそうだ。もし落書きが見つかったら、治安維持法違反容疑などでしょっぴかれ、厳しい取り調べを受けただろう▼内戦の死者が二万人を超えたとされるシリア。反政府デモの発端となった南部ダルアーで起きた弾圧事件のきっかけは落書きだった。弾圧の現場を目撃し、ヨルダンに逃れたシリア人の難民の男性が、本紙の寺岡秀樹記者に語った証言は衝撃的だった▼民主化運動「アラブの春」が盛り上がっていた昨年三月、治安当局に拘束された男子中学生らの大半が帰ってこなかった。高校の校舎の壁に「アサド、次はお前の番だ」と落書きしたことが原因だ▼少年たちを取り戻そうと、イスラム教の礼