おっさんだ。 頬に斜めの刃物傷のあるおっさんが、ニコニコと笑ってボクの正面に座っていた。 眼光の鋭い、異様に迫力のあるおっさん。 背は低く痩せぎすだが、外で目があったら一瞬で目を逸らすだろう相手だ。 実際にこのおっさんはその筋の人だ。しかも組長でもかなり上の方の人らしい。 その組長の田口五郎は、上機嫌にボクにビールを注いでくれた。 ――まるで、目上の人間に対してするように。 ヤクザの組長が頭を下げる相手なんて、そういないのではないだろうか? では、その相手であるボクはどんな人間なのか。 ボク、川辺誠(かわべまこと)は小説家だ。 あんまり売れない専業作家で、食べていくのがやっとという所。 書いてるジャンルは任侠ものだ。 仕事に貴賤(きせん)はないとは言うけれど、残してきた足跡を考えれば、けっしてここまで低姿勢に迎えられるような業績は残していない。 過去に少しでも自慢できる経歴といえば、新人賞
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