安倍晋三元首相暗殺事件は、日本の政治と宗教をめぐる激しい議論を喚起した。だが、旧統一教会の政治関与を自民党の党派性のみに還元するのは妥当だろうか。問題は、戦後保守の社会基盤のあり方と、その中における宗教団体の位置付けを視野に収める、大きな文脈の中にある。 大きい声じゃ云えないが、何が一番いい商売かと云えば、宗教だね。宗教で、人を救う道だ。面白いほど迷いの人間が聞きつたえてやって来る…面白いもンだ。喜んで金を出す人間ばかりだ。金を渋るものがないと云うのは宗教の力だね。(林芙美子『浮雲』、新潮文庫、293-294頁) 成瀬巳喜男監督で映画化もされた林芙美子『浮雲』の、高峰秀子演じるヒロインと絡む脇役「伊庭杉夫」のセリフである。映画では山形勲が、純粋に金儲けを目的に「大日向教」にはいり教団内で地歩を固めていく、人品は卑しいがとにかくしぶとくたくましいこの役柄を好演している。 映画の公開は1955