こよなく愛する日本酒のコレクションに囲まれ、自然と笑みがこぼれるシェティル・ジキウン。石川県の地酒「菊姫」など、腰のしっかりした酒が特にお気に入りだという=ノルウェー南部の醸造所 太い指が黙々と、リズムを刻むように、まだ湯気が立ち上る蒸し米をほぐしていく。まなざしは真剣そのものだ。張り詰めた空気の中で仕込みが一段落すると、シェティル・ジキウン(48)は満足そうにうなずき、顔にようやくいつもの柔和な表情が戻った。 首都オスロから南に車で約3時間、南部グリムスタの田園地帯にジキウン率いるノルウェー有数の地ビール醸造所、ヌウグネ・エウ社がある。ここは欧州初の日本酒の蔵元でもある。 豊かな緑に囲まれ、すぐ脇には澄み切った小川が静かに流れる。以前は発電所だったという建物は天井が高く、実用性を重視したシンプルな内装はいかにも“北欧”だ。 「決して妥協しない」—。ジキウンの名刺に印刷されたこの哲学が