小説、エッセイ、短歌、俳句とさまざまな文芸ジャンルで活躍する作家、くどうれいんさん。くどうさんの7月の「日記の練習」をもとにしたエッセイ、「日記の本番」です。 染野太朗の『初恋』という歌集を読みながら身をよじる。ページを捲るほどにたまらない歌ばかりあるので、もう、たすけてくれよという気持ちで鉛筆が欲しいと思った。溺れそうなときのささやかな浮き輪のように、きつい上り坂に使う杖のように、この歌集を読むときはこれぞという短歌の頭にちいさく○とつけることで息をつこうと考えたのだ。いい短歌に頭がぽやんとする。ページを開いたまま歌集を伏せてペン立てを漁る。ボールペン、水性ペン、油性ペン、ボールペン、ボールペン、筆ペン、ボールペン……(取り返しのつかないペンしかないじゃん)と思って(え、わたし鉛筆のこと「取り返しのつくペン」だと思ってたの?)とびっくりした。うろたえつつ何度も探したがどこにもない。しぶし