カントの「先験的弁証論」 ――先験的反省とIntelligenzたることの自覚―― 山本博史 カントの「純粋理性批判」は、哲学的理性による理性の自己批判を叙述したものである。哲学的理性は先験的反省を通じて自己(人間理性)を批判する。小論の意図は、哲学的理性の先験的反省という観点から「先験的弁証論」を考察し、哲学的理性が無制約者に関する先験的反省を行なわざるを得ない根拠は、また哲学的理性が二律背反を解決し実践理性の領域へと移行せさるを得ない根拠は、そのIntelligenzたることの自覚に存するということを、明らかにする点にある。 一 先験的反省と根拠の問題の自覚 カントは、形式的「論理的能力」としての理性と実在的「先験的能力」としての理性とを包括する「より高次な概念」としての「理性一般」を、「原理の能力」(A299=B355f.)(1)と名付ける。理性一般は、多様な悟性認識を「推論の素材」