「ここに座っていいかしら」 ふと声をかけられた。場所はオランダからドイツ経由スイス行きの列車。食堂車の半分を占めるカフェは社交場がわりになっていて、ドイツ人がビールを飲みながら上機嫌でおしゃべりをしていた。私の横のスペースは半人分くらい空いている。無理矢理つめれば座れないこともないな、と思って顔を上げると女優みたいな人が立っていた。 人様の容姿をどうこう言うのは品が良くないというものだが、ドイツ人一同はおしゃべりをやめ、一挙手一投足を口を開けたまま見ているので、隠れ美人が多いとされるドイツ人基準でもかなりの美女らしい。高身長のキャメロン・ディアスをほっそりとさせて冷たい感じの顔にしたらそうなるかも、というルックスだった。 まずは、ドイツ人相手に議論を吹っかけていたアメリカ人の留学生マイケルが流暢なドイツ語で自己紹介。どうやらこの男は主導権を握りたいらしく、その場の全員を紹介した。自分をアピ