『放課後』(講談社文庫)が、ありえない小説と言われていた頃があった。 言うまでもなく、第31回江戸川乱歩賞を受賞した東野圭吾のデビュー作である。年季のいった読者には、そういえばそういうこともあった、と思い出される方もあるのではないか。 『放課後』は1985年、今から41年前に刊行された。女子高を舞台にした作品で、洋弓(アーチェリー)部の部室が密室状態になっている中で死体が発見される。ありえない、というのはこの密室を構成するトリックではなくて動機の方だった。そんな理由で罪を犯す者がいるか、という批判が湧き上がったのだ。今読むと犯人の気持ちは痛いほどよくわかる。時代は変化したのだ。 1980年代は乱歩賞について、「誰も使っていない題材を使って、密室トリックを入れれば取れる」などとまことしやかに言われていた時期だった。ミステリーに関する感覚が狭く、固定的だったのである。この古いミステリー観に合わ

