安倍晋三首相の金融緩和を柱とした経済政策については、株高や円安という結果がすぐに出たことで反対派も意見を変えつつある。しかし、いまだに多いのが「物価が上がっても賃金が上がらず、生活が厳しくなる」といった批判だ。 賃金は労使間の交渉で決まるが、一般的に賃上げ率は物価上昇率に生産性向上率を加えたものになる。この原則は企業の付加価値を労使で分けるときに分配率が変わらないので、労使双方にメリットがあるからだ。もちろん個々の産業、企業によっては賃上げ率が異なるが、全産業としてみれば、賃金上昇率は物価上昇率より生産性向上分だけ高くなる。 意外なことかもしれないが、ここ20年間のデフレ経済下でも、労働分配率(雇用者報酬を国民所得で割ったもの)は、60%台半ばから70%台半ばまで8ポイント程度上昇して、労働者が有利になっている。その理由はデフレでも賃金には下方硬直性(下落しにくい性質)があるからだ。労