2014年は「イスラム国」に関連する事件が世界中で引き起こされた。9.11以降、イスラムに関する報道は日本でも欧米寄りの視点のものが大半である一方、本質的な部分がなかなか見えにくくなっている感がある。 筆者はアラブ文学が専門で、イスラム以前の詩歌や中世の散文文学、説話のほか、中世の史料なども研究対象としている。アラビア語の史料を読み解くことは難しくもあるが、アラブの人々の生活や彼らを繋いできた思考様式にダイレクトに触れることができるのは充実した瞬間(とき)である。本コラムではそうした文化・歴史的視点からイスラムの現在を読み解いていきたい。 預言者ムハンマドがイスラムを説き始めたのはどのような時代だったかを知れば、「イスラム国」の精神的背景が見えてくる。また、同時代の日本の状況からは、歴史の意外な符合の面白さを感じることもできる。 初期イスラム共同体への回帰 「過激派」や「テロリスト集団」と