食事のあと汚れた食器を洗う。僕に任された家事のひとつだ。静かな台所に響くカチカチという食器同士がぶつかる音とちょぽちょぽと水が流れる音はどこか寂しくて好きになれない。壁のカレンダーをみると10/31に母の字。赤いペンで「任務終了」。母が定年退職する。65歳。父が亡くなった直後からだから20年近く働いたことになるのだろうか。 母が見つけてきた仕事は隣の市にある葬儀屋だった。事務から進行補佐まで。土曜・日曜関係なし。通夜がはいると夜遅くまで仕事。そんな環境だった。五十近くになっていた母には相当きつい仕事に思えた。働きはじめた当初、疲れきっている様子をみて、僕が転職をすすめると、ガクもない。シカクもない。何十年も前に電機メーカーで数年働いただけのオバハンだからといって母は笑った。確かに家計は火の車操業で大変だったけれど、僕には母がわざと忙しいなかに身を置いているようにしか見えなかったが、それが父