ハプニングは15キロ過ぎで起きた。それまで5キロをほぼ15分10秒前後で刻んでいた集団から、ペースメーカーのキプタヌイ(ケニア)が突然飛び出したのだ。次の5キロは14分15秒。「闘争心に火がついちゃったのかな」。日本陸連の木内敏夫・長距離・ロード特別対策委員長代行も首をひねる、レースを台無しにしかねない暴走だ。 他の選手は決断を迫られた。ついて行くか、自重するか。多くがキプタヌイの背中を見送る中、「ここが勝負どころ」と果敢に追ったのが北京五輪銀メダリスト・ガリブだった。 「あらゆるケースを想定して練習している。速すぎや遅すぎのペースで走ったり、急にピッチを上げたりね」。汗ばむような暑さもあり、同じくキプタヌイを追ったケベデ(エチオピア)らは失速したが、ガリブの足は止まらない。両腕を広げて笑顔でフィニッシュし、月桂樹の冠を誇らしげに愛息アミール君に見せた。 世界選手権を2度制した38歳も、国