■貧乏でも素朴な人情が存在した 5代目古今亭志ん生が好んで演じ、息子の志ん朝が引き継いだ「井戸の茶碗」という落語がある。あらすじはこうである。 「正直清兵衛」と仲間に呼ばれている屑屋が、長屋の貧乏浪人から仏像の払い下げを受ける。それを細川家の若侍が買うが、よごれた仏像を磨いているうち、底の紙が破れて、中から小判50両が出てきた。潔癖な若侍は「仏像は買ったが小判は買っていない」と清兵衛を呼び出して、浪人に返しに行かせるが、浪人は浪人で「先祖が万一のために残してくれた蓄えだったとしても、その仏像をわずかな金のために売ってしまう自分には、それを受け取る資格はない。先方にお返し願いたい」と言う。 両者相譲らず、間に入った清兵衛は往復で仕事もできない忙しさ。浪人が住む長屋の大家が見かねて「双方20両ずつ受け取り、あと10両を間に立って苦労した清兵衛に与える」との折衷案を出す。若侍はそれで手を打