1.ディアスポラ・ユダヤ人の拡散 紀元30年の春に、エルサレムで「イエス」というひとりの男が、ローマの総督ピラトのもとで、十字架刑に処された。しかし、イエスは三日目に復活して、彼の信奉者たちにその姿を現した。彼を「キリスト」と信じる者たちは、その後、連綿と続いている――。これは1世紀のユダヤ人歴史家ヨセフス(37年-100年頃)も書き記していることである(『ユダヤ古代誌』ⅩⅧ・ⅲ・3参照)。 イエスをキリストと信じる者たちの集団、すなわち「教会」がエルサレムで誕生した時にメンバーであった者たちは、ほとんどがユダヤ人であった。ただし彼らは、パレスチナで生まれ育って、アラム語とヘブル語を主に使用する「ヘブライスト」と、異邦で生まれ育って、ギリシア語を主に使用する「ヘレニスト」に、大きく二分される(使徒行伝6章)。アウグストゥス帝(在位 前27年-後14年)治下にローマ帝国に居住していたユダヤ人